オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「俺はいいんだけど……友里ちゃんにとってはあまりよくないかもしれない」
暗に〝弱味にぎってますよ〟とでも言わんばかりの態度をとられた気がして、なにか弱味になるようなことなんてあったっけ?と心当たりを探して黙っていると。
「話くらいならいいんじゃない? まさか〝あの〟松浦さんだってこんな日中堂々、しかもこんなに人目のあるところで手を出してきたりしないだろうし」
工藤さんが口を挟む。
「〝あの〟松浦さんですよ。結果さえよければあまり時間とか場所を選ばない感じがするんですけど」
「〝あの松浦さん〟ここにいるんですけど……え、わざとだよね? なにこれいじめ?」
本人を目の前に交わされた会話に、松浦さんは苦笑いを浮かべる。
「わざとです」と答えると、松浦さんは「俺、そんなに信用ないの?」と気の抜けたような顔を浮かべた。そんな顔されてもな……と眉を寄せる。
「松浦さんだって、社内で流れている自分の噂を知らないわけじゃないでしょ?」
「社内で流れた噂を全部鵜呑みにしちゃうの? で、事実かどうかもたしかめないで、俺にそんな失礼な態度とるんだ?」
ぐっと押し黙ると、松浦さんは最後「可愛いね」と挑発するように笑うから、そのままにしておけずに口を開いた。
「いいですよ。話くらいなら聞きます。ただし、名前で呼ぶのはやめてください」
睨むようにして釘をさすと、松浦さんは満足そうな笑みを浮かべ……その表情に、うっかり挑発に乗せられてしまったことを後悔してももう遅い。
「松浦さん、篠原の扱い方心得てるね。ドライに見えて割と好戦的な部分、直したほうがいいよ」
私の背中にボソッと言った工藤さんが「気を付けてね」と注意をうながす。
松浦さんが私のことを前から知っていたとは考えにくいから、今の会話だけで私の性格を見抜いたってことだろうか。
洞察力の鋭さに気味の悪さを感じ顔をしかめていると、松浦さんは「場所を移そうか」と爽やかな顔で言った。