不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 カーライルの右手の指が伸びたところで、突如、横に現れた者によって彼女の手首が掴まれた。発動しようとした指先の小さな魔法陣は霧散する。

 まゆこは思わず名を呼んだ。

「ジリアンっ」

 玲瓏な横顔には、はっきりと分かる怒りが浮かんでいる。

 至近距離から凍れる視線に晒されたカーライルは、あれほど強気だったのに、すぐさま目を伏せ恭順の姿を取る。

 まゆこが驚きで目を見張るほど、瞬く間にか弱い美女へと印象が変化した。

 ジリアンの声があたりに響く。

「カーラ。マユコは私の大切な客だ。無体な真似をしたら城から叩き出すぞ。フォンダン公爵へ正式な抗議をしたらどうなるか。分かっているだろう?」

 カーライルは、ぎょっとして蒼褪めた顔を上げる。そして大粒の涙を零し始めた。

 仰天した。まゆこは、支えてくれたエルマから身を放して見上げる。エルマは微笑してわずかに両肩を上げた。
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