不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンは深い深いため息を吐いた。幼いころから彼女を知っているから、『カーラ』と愛称で呼びならも、裏の顔があるのを熟知しているのだろう。

 ジリアンがまゆこの方へ向いた途端、カーライルは彼の背中越しにすさまじい目つきで睨んできた。恨みを買ったかもしれない。

 まゆこはいずれここからいなくなるのだから、その感情は不要なものだろうに。

 説明できる機会はあるだろうか。

「ジリアン。お言いつけ通りにもう戻るわね」

 ちらりと振り返ったジリアンに向かってあでやかに微笑むと、カーライルはドレスの裳裾を摘んで貴婦人の礼をした。

「バーンベルグ城では、もう許可なくして動くなよ」

〈無駄だと思うが言ってみた〉というジリアンの声音だったと思う。

 カーライルはすっと背を伸ばすと、身体の向きを変えてその場から歩き去ってゆく。どうやら、今度は歩いて部屋へ戻るようだ。

 とても優雅な動きだった。さすが、生まれたときから姫と呼ばれる者は違う。

 ジリアンがまゆこに近寄ると、エルマは即座に少し離れて深々とお辞儀をする。

 テオも走ってきて、エルマの隣で同じように頭を下げた。気配もなかったので近くにいたのをすっかり忘れていた。

 彼らにとってジリアンは、バーンベルグ家の当主であり、公爵本人だ。最上礼を尽くしても足りないほどなのだろう。
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