不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンはまゆこの前に立つと、彼女を上から下まで眺める。

「怪我はないな」

「えぇ。大丈夫」

 にこりと笑う。ジリアンはまたため息を吐く。

 ――ため息……。手がかかると思われた? それとも、ほっとしたのかな。

 窓から落ちたとき、すさまじい形相で走ってきた彼を思い出す。あのときは、空間跳躍魔法を使わなかった。位置確定の問題だろうか。

 彼女はいま、彼の指輪をしている。

 寸分たがわず位置の特定ができるのかもしれない。

 まゆこは、ジリアンにとって手がかかる客人であるのは確かだ。でくの坊と言われる通り、魔法という点ではなにもできない。少し哀しい。

 ……そういえばジリアンは、一言も無く空間跳躍をしてきた。

 力の差が歴然とあり、他者にもその違いが明快に分かるというのは、かなり厳しい世界のありようだ。
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