不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 風が舞った。

 次の瞬間には、まゆこの隣にジリアンより多少なりと背の高い男が立っていた。

 叫ぶ前に、ジリアンが呆れた物言いでその男を呼ぶ。

「ゲオルグ。おまえまで決まりごとを破るのか」

 知り合い? ゲオルグ……聞いたことがあるような。

 記憶を探った途端、声が出た。

「ゲオルグ・ヴォーデモン? 三家の?」

 ルースの話に出てきた名前だ。

 黒髪で藍色の瞳をした頑丈そうな男はにやりと笑う。

 上の方から見下ろされると怖いくらいだが、笑った貌はやんちゃ坊主のようだ。

「そう怒るな、ジリアン。カーラだけに挨拶を許すのは片手落ちだろう? 俺にもその機会を寄越せ」

「カーラに許したつもりはない」

「じゃ、いま許せ。マユコ、逢えて嬉しいぞ」

「はじめまして」

 ちょこんとお辞儀をした。カーライルのような優美な形にならないのが悔しい。もう少し練習しようと心に拳を作る。
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