不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 この屋敷には、現在、三家の血に繋がる者が集まっている。しかも、その内の二人は魔法闘技で戦う相手だ。

 ゲオルグは、ジリアンと同じ二十八歳で、ヴォーデモン公爵の嫡男。魔法闘技では、勝ち残って次期国王になる最有力候補だという。

 そういう男にしては動きが軽い感じがする。

 いきなりまゆこの手を取ろうとしたので、反射的に後ろへ下がった。

 彼はひどく驚いた顔をしてもう一歩前へ出てきた。まゆこはまた下がった。

 バラのアーチの前が広場になっていて、下がる余地があるのは本当によかった。

 ますます驚いた顔になったゲオルグにジリアンがフォローを入れる。

「マユコを驚かすな。遠くから来たんだ。王宮社交界にまだ慣れていない」

「いや、俺は普通に、貴婦人に対する礼儀として……、ふーむ」

 興味津々といったまなざしで見られて居心地が悪い。

 デイジーが、『貴婦人への最上級の挨拶は手の甲へのキスです』と言っていたのを思い出したまゆこは、大層慌てた。
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