不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 あたふたとして居住まいを正す。

「失礼をしていたらごめんなさい。こちらの風習をよく知りません。どうぞお許しください」

「う……いや。礼儀としてであって、他意はない。他意はないから、知らないのなら仕方がないのであって……。ではもう一度」

「おまえがそれほど狼狽えたのは初めて見たな」

「うるさいぞ、ジリアン」

 ゲオルグが前へ出て、もう一度手を取ってきた。まゆこは腰が引けたが、我慢して動かないよう心掛ける。そして手の甲にキスだ。

 ゲオルクが顔を上げると、すぐに手を引いた。これも拙かったかもしれない。が、もう遅い。

「……マユコ・リンガルです。どうぞお見知りおきください」

 うんうんと頷いたゲオルグが満足そうなので安心する。

 ジリアンにとって幼馴染とはいえ、王位を掛けて戦闘する相手だ。

 家同士の確執もある。個人として友人のように見えても、なにかの表裏で手厳しい敵になるかもしれなかった。まゆこがきっかけとなったら目も当てられない。
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