不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ゲオルグは楽しげに語る。

「マユコはいい匂いがするな。なぁ、ジリアン。おまえ、感じないか?」

「感じる。マグノリアに似た香りだ」

 モクレンのことだ。モクレンの花言葉は〈自然への愛〉だった。

「マグノリアは割と大きく育つ樹木だったな。マユコには、樹木の守護があるのかもしれん。カーラは気付かなかったようだが」

 ゲオルグが呟いたが、まゆこはそれどころではなかった。

「え……。わたしは感じないんですけど。匂うの?」

 ぎょっとしたまゆこは、自分の手や肩近くに鼻を寄せた。くんくんとする。

 ゲオルグは笑いだす。ジリアンと違ってこの男はよく笑う。見せる笑いとでも言えばいいのか。大げさな感じもした。

 笑うことで人の警戒を解くとするなら、なかなかの策士かもしれない。

 もっとも、まゆこの警戒心は一向に薄れないばかりか、ますます後ろに下がりたくなってしまった。
< 122 / 360 >

この作品をシェア

pagetop