不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 太陽は中天から西へ向かっている。気温が少しずつ下がってきた。

 歩きながら、ジリアンがまゆこに話しかける。

「マユコ。ダンスがかなり上手くなったと聞いたぞ。今度、私と踊ってくれ」

「まだまだよ。でも、練習になるから、ジリアンに相手をしてもらえたら嬉しい」

「練習か」

「上手くなるためにはいろいろな人と踊るのがいいって先生が。……でも、いい。ごめんね。一週間もすれば王城へ行くのに。ジリアンは忙しいんだった」

「……マユコは、いつも私の様子を気にかけてくれるんだな」

 まゆこは不思議な面持ちで首を傾げる。

「この城にいる人たちは誰でもそうでしょう? だってジリアンは当主だもの」

「それはそうだが。魔法力があるから誰もが遠巻きになって、安心して見ている」

「遠巻きで安心……。変な感じ」

「魔法力が大きいから、恐れもあれば、守る必要もないと考える。その結果、遠巻きになって、私自身を見ることはない。小数を除いて、だが」

 少数というのが、ルースとその父親、デイジーを示している。本当に少ない。

まゆこもジリアンの事情を知る一人だったが、なにかできるということはない。魔法力の違いとはそうしたもののようだ。孤立を招く。
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