不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「さっさと帰れ」

 ジリアンはそっけない。

 ゲオルグはすぐにまゆこの手を取ろうとする。だからついまゆこも後ろへ下がってしまうのだ。しかしゲオルグはめげない。彼は、行き場を失った手を、今度は上向きにして、まゆこに差し出す。

「マユコ。次は是非、ヴォーデモンの屋敷へ来てくれ。珍しい料理をふるまうぞ。一緒に旅行へ行くのもいいな。王城へ連れて行くというのはどうだ」

「ありがとうございます。王城へはジリアンと一緒に行きますから……」

 大らかな雰囲気だったゲオルグの様相が一変して、真摯な表情に変わる。

「魔法闘技のためか――」

 唸るようにして言う。そこへカーライルの声が被った。

「王城へ行くつもり? リンガルごときの姫が」

 仮面が外れていますよ、カーライルさん……と忠告したかったが、それはゲオルグがやった。

「煩いぞ、カーラ。ジリアンが連れて行くなら、王城でも賓客扱いになる。おまえがとやかく言う筋合いじゃない」

 カーライルはふてくされた顔をゲオルグに向けた。

「最後まで笑っておけ。まったく。晩餐が終わったら帰る約束だろうが。〈マユコに逢う〉という目的は果たした。もう行くぞ」

 ゲオルグをギラリと横目でにらむカーライルは、ジリアン以外に気を使うつもりはないようだ。分かり易い。ジリアンはまた、ため息を吐いた。
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