不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 腕を組んで長い廊下を歩く。やがて外回りの回廊に入った。

 一方は建物の壁、一方は、柱だけの壁のない面が続く。凝ったアーチ形の屋根を支える優美な柱には、魔法で灯る明かりがあった。

 壁のない方はそのまま外へ出られる。外にも外灯が点々とあるので、真っ暗闇ではない。しかも、月が明るく星が瞬く夜だ。

「行くか?」

 頷けば、庭の小道を彼と一緒にそぞろ歩くことになった。しかも、腕を組んで。

 たくさん話した。まゆこが属する世界の話は、彼にとっては大層面白いようだ。

 中庭から奥の庭へ入ってゆくと、窓の明かりさえも遠くなる。

 誰もいないと考えて、まゆこはかねてから思っていた疑問を口にした。

「ねぇジリアン。もしもなにかがあって、わたしがウィズで、その、死んだりしたらどうなるの?」

「こちらへ来たときの場所と時間から、それ以降いなくなったということになる。突然いなくなって、帰ってこない娘になるな」

 ――行方不明者になるってことか……。

 彼女は下を向いて強張った顔を隠すが、ジリアンは目ざとく見ていた。

「私が必ず安全な方法を見つけて帰す。なにがあっても守る。忘れないでくれ」

「えぇ」

 顔を上げて心配そうに彼女を覗き込むジリアンを見つめる。

 ――安全に……って。どうしてこんなに強調するのかしら……。
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