不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 開けた場所に出た。

 真ん中に噴水がある。花々を冠した女性の裸体像が中心にあって、軽く広げた両方の掌から水が出ていた。

 遠くに温室が見えたところで、ジリアンは足を止める。

 顔を前に向けたままで、まゆこに聞いてきた。

「くどいようだが、もう一度聞く。マユコは帰りたいんだな? 家族が心配するから」

「えぇ。仕事もあるしね」

 笑って応える。ジリアンがまゆこの方を向いた。外の灯りは遠く、月が彼のうしろ側にあったから、陰になって顔がはっきり見えない。

 声だけが彼女の身体の奥底まで落ちてくる。

「家族、か。いい響きだ」

「……」

 胸が詰まったようになった。
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