不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「テオです」

 冷静なエルマの声ではっとして彼女の視線の先を辿る。

 かなり離れた渡り廊下を歩いているテオの姿が見えた。

「ルースの用かしら。ルースも、ものすごく忙しいみたいだものね」

「……そうですね。まっすぐ行けば、城壁の西門の近くへ出ますから、町へ行くのかもしれません」

 まゆこは、遠くを歩くテオと真剣な面持ちで凝視しているエルマを交互に見てしまった。

 エルマの厳しく引き締まった横顔には、テオを弟のように思っている様子はない。

 かといって、同じ城勤めをしているという仲間意識も感じ取れない。どちらかというと、熱っぽい視線のような気がする。

「エルマ。もしかしたら、あなた、テオのことが……」

 ジリアンの話ばかりしていると指摘されたので、お返しに言ってみた。

 冗談が九割、もしかしたらという部分が一割程度の指摘だったのだが、エルマは大層慌てた。

「そ、そのような……っ! 興味はあります。それは本当です。ですが、そんなっ、ことはっ」

 ――え? ……あれ? これって……。いや、まさかね。エルマはテオより七才上だし、身長差だって。……エルマの方が二十センチくらい高い。
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