不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 まゆこはふわりと顔を上げて周囲を見回す。

「良い天気ね」

 話題を変えるには、天気の話が一番だと思う。

「そうですね。寒くはございませんか」

「暖かいくらいよ」

 笑い合ってそぞろ歩く。やがて温室の屋根が見えるところまで来た。

 目の前は広場になっている。真ん中あたりに噴水があるのは、夜に見ていた通りだ。

 そこに人影があった。遠目でもすぐに誰だか分かる。端麗であり、均整のとれた身体と人を寄せ付けない独特の雰囲気を持つ者。

 彼の周囲を取り巻く空気の中に、他の者では絶対に持ちえない渦が巻いていた。魔法の発動中だ。思わず名を呼ぶ。

「ジリアン……」
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