不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 エルマが息を呑んだ。

「これは……。マユコ様、申し訳ありませんがお戻りください。ジリアン様は魔法闘技の訓練中です。お邪魔するわけにはまいりません」

 まゆこは前方を見据えた状態で、すぐに身体を動かせなかった。

 見えているのは彼の横顔だ。口が動いた。声まで聞こえなかったが、ジリアンが魔法言語の一つを放ったようだ。
 すぐさま彼の前方の土が盛り上がり、瞬く間に壁のように立った。

 ――これは、防御だわ。攻撃は……。

 噴水の水が突如として氷の柱になり、中途で折れて彼の方へ飛んでゆく。

 立ち上がっていた大地の壁に次々に突き刺さり、そして壁を粉砕した。砂や細かな石が振り撒かれ、轟音があたりを埋め尽くす。

「すごい……」

 いままで見てきた魔法とはレベルが違う。防御と攻撃を一気にこなした。

 しかし、ジリアンは肩で息をして悔しそうに顔を歪めている。いつもさほど動かない表情なのに、遠くからでも見て分かるほどだ。

 まゆこの目にはすさまじい威力と映ったが、彼自身は満足していない。ジリアン自身は、いまのままでは勝てないと考えている。

 三割程度の出力では総力戦にならない。彼はそれが心底悔しいのだ。全力を出せないのが辛そうだった。
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