不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「マユコ……」

 口の中で囁く。それだけで、体中に力が満ちてくるようだ。

 目の奥に、あの細い肢体と軽い髪が浮かび上がる。動くときは驚くほど素早くなる姿が脳裏を過ぎっていった。

 ――おまえだけだ、マユコ。おまえだけを愛する。

 心の中で幾度も呼びかける。

 おまえを元の世界へ戻す。これで、バーンベルグ家の血は途絶えることになる。けれど、帰りたいというおまえの望みを叶えてやりたい。

 彼の手の中には残らなかった家族が、まゆこにはいる。

 ――死に直面する状況も必ず変えてやる。だから、おまえの意志も確かめずにこちらへ呼んでしまった私を許してくれ。
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