不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「行くしかない。ゲオルグ、約束を覚えているだろうな」

 ゲオルグは壊れた左腕を放置したまま、右手で自分の頭を軽く掻いた。

「おまえが留守の間、マユコを守るんだろう? 大人しく守られていてくれるなら、そうするさ。おまえが戻らないときは、俺が障壁対策をしなくちゃならんから、ルースから〈なにか〉を受け取るっていうのはそのあとだ」

「頼む」

「負けたからな。命令には従うさ。なぁ、氷結王」

 顔を上げたゲオルグは皮肉気に笑う。大雑把な性格だが、約束は守る男だ。

 ゲオルグはため息交じりに付け加えた。

「まったく、三割程度の力しか使えないはずだったんだぞ。それが、これほどの力を隠し持っていたとはな。こういうの詐欺とか言わないか?」

「言うな。私もここまでできるとは思わなかったんだ。初めて思い切り魔法力を解放した。気持ちがいいものだな」
「俺は腕が痛い。氷結の魔法陣は背中に描いてあるのか?」

 力の流れ方で分かったのだろう。大きな魔法は、短くした魔法言語や、発動のきっかけとする動作だけでは動かせない。

 脳内の虚空間で描く魔法陣だけでなく、どこかの場所に複雑な魔法陣と詠唱を描いておく必要があった。それを自分に触れさせておかなくてはならない。

 ゲオルグは掌に当てた革に刻んでいた。

 ジリアンは背中に彫ってある。革などの物品に刻んだ場合、魔法の発動が劣化して威力が多少落ちるからだ。

 こういうのは内緒にしておくべき情報だった。
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