不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ぐっと頭を上げる。ゲオルグの顔を見るわけではない。視線は遠く、雪の降る空よりも遠く、行ったこともない、雪で覆われた北の国境線を見ている。

 呟くように言った。

「彼は一人ではないわ。わたしがいるもの」

 小さな声にも関わらず、そこにいる者たちはみな聞いた。

 なんのためにこの世界へ来たのか。

 いまこのときに、ジリアンを一人にしないために。

「婚約者だもの。バーンベルグ家の者として行ってもいいでしょう? たとえ誰も認めなくても、許さなくても、わたしは行く」

 振り返ってルースを視界に入れると、訊いた。

「国境線の近くに人が住んでいるのよね。田畑が襲われるんだものね。いまは雪で覆われている山肌も、春になれば雪が解ける部分もあるのでしょう? 木々が芽吹いて、花が咲いて、実がなる。動物たちが生きている場所。そうよね?」

「はい。そうです」

 足元に目線を下げれば、雪がうっすらと積もった土がある。
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