不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
　他の人たちもジリアンの目覚めを気に掛けていた。いまはまゆこだけがこの部屋にいる。

　彼の目が開いたことを知らせに行かなくてはいけないと思いつつも、動けない。

　両目が完全に開いて、ジリアンは瞬きを何度かした。彼の手がいつの間にかまゆこの頬に当てられる。

　少し冷えた感触の手を、まゆこは両手で押さえるようにして触れた。

　唇が動く。彼女の大好きな声が発せられる。

「マユコ。私のただ一人愛する者。おまえだけだ。愛している」

　夢でも見ているのかと思った。ジリアンは長く眠っていたから、これは寝言なのかもしれないなどと、脳裏だけが勝手に動く。

　けれど自分自身はとても正直な反応をした。

　みるみるうちに両目に涙が溢れる。とうとうと雫を溢れさせてゆく。彼女の頬を包むジリアンの指先も濡れた。
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表紙・目次

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