不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 そうしていま、二人で階段を下り、別棟へ行く渡り廊下から庭へ出た。

 太陽は中天にあり、微弱な風が髪を撫でる。

 似たような世界の造りでも、ウィズの方が、はるかに自然の気が強いと感じるのはこういうときだ。

 まゆこは秋の高い空を見上げて言う。

「今日も良い天気ね。気持ちがいいわ」

「そうですね。今朝、洗濯係の下女中たちが喜んでいました」

 城内を整える役目の女中にも階級があり、洗濯をしてアイロンをかけるのは、かなり下の者と認識されている。

 他に、奥女中、料理担当者、庭師、御者に馬場の管理をする者などがいるそうだ。

衛兵となる公爵家の私兵もかなり多い。いたるところで目にする。

 ジリアンの侍従や、秘書的な仕事をする者など、いったいどれほどの人間がここで働いているのだろうか。

 頂点にいるのがジリアンだ。彼は倒れてはいけない人だった。

ジリアンがいなくなると、バーンベルグ家はなくなる。働く者たちは職場を失い、散り散りとなって去らねばならない。

 彼は、家と領地と領民たち、そしてバーンベルグ一族に仕えるこの城の人々を背負っていた。

 一人で。

 窓から落ちたあの日、まゆこはそれを知った。
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