不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 まゆこは彼の横顔を見上げて訊く。

「晩餐では家族が揃うのでしょう? ご挨拶をしなくていいのかしら。この城にお世話になるから、ご両親とかには、きちんとしないといけないと思うのよ」

 彼は歩調を緩めながらも前を向いたままで答える。

「誰もいない。挨拶する相手などいないから、気にしなくていい」

「……だれも? 他の場所に住んでいるってこと?」

「親も兄弟も、叔父や叔母などの親類も、血に繋がる者たちはみなこの世を去っている。遠い縁者まで広げるなら、ルースとその父親になるかな。といっても彼らはリンガル子爵の筋になるから、家としては別だ」

「……」

「妻も子もいない。私は、たった一人のバーンベルグだ」

 階段に差し掛かっていた。歩いている流れで、まゆこは下を向いて顔を隠す。

 だれもいない。自分だけ。

 胸が苦しくなるような返答だった。

 ジリアンはそれ以上なにも言わなかったので、まゆこも無言で歩いた。
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