秘書課恋愛白書

だが、私はそれどころではない。

状況を整理するべく震える肩を抱きしめてその場に立っているのが精一杯だった。


太陽が雲に隠れて社長の顔がやっとまともに見える。

社長も私が入ってきたことに驚いたように目を見開く。


そして社長に抱きとめられていた女の人も社長の視線を辿るようにこちらへと振り返った。


私は……思わず息を飲んだ。


振り返った女の人の顔が、

少しだけ私に似ていたから。


相手の女性も私を見てびっくりしている。

世の中には似ている人が3人はいるというが、まさにこのことだ。


だが頭を整理しているうちにあることに気がついた。

社長の部屋にあった大切に飾られていた写真立ての存在を。

写真だとあまりわからなかったが、実物を見てある意味納得してしまった。


「あ、あの……失礼しました!」

「綾女!!」


社長が私の名前を叫んだが無視して社長室を飛び出した。

慌てて給湯室に戻って沸騰するヤカンのガスを止めて非常階段へと逃げ込む。

アドレナリンが活発化している体は階段を駆け下りるのも早く足のもつれも感じさせない。


さっきの光景は、夢?

ひたすら階段を駆け下りて気づけば1階へと辿り着いていた。

じんわりと視界が涙で歪むのを必死で堪えながら人目も気にせず私は会社を飛び出した。
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