秘書課恋愛白書
無我夢中で会社を飛び出してしまった。

行く当てもなく、立派な職務放棄だ。


でも…こんなぐちゃぐちゃな感情のまま戻ることも出来ないし、仕事を続けることも多分出来ない。

階段を駆け下りたことによる動悸と息切れが急に襲ってきてフラッと倒れそうになった。

このまま気を失って、起きたら夢だったらいいのに。

目を閉じると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「中原さん…?」


中原さんと呼ばれるからにはきっと知り合いだと思って、涙で濡れた顔をゆっくりあげるとそこにいたのは社長のご友人。


「灰田、さん…?」

「また…どうしたんですか本当に。大方予想は出来ますけど」

「すみません…私、ちょっと気が動転してて」

「ゆっくり息を吐いてください。大丈夫です。僕がついていますからね」


優しく諭すように話しかける灰田さんにもたれかかる。

そして、近くで待機していた運転手に向かって手を挙げると車は私たちの方に向かって発車した。


「どうせ怜がまたなんかしたんでしょう。さ、行きましょう」

「え…あ、はぁ」


どこに行くの?

なんで灰田さんがここにいるの?

社長に会いに来たからじゃないの?

困惑の表情を浮かべる私に大丈夫ですよと優しく背中を撫でてくれる手が暖かい。

考える暇を与えてはくれず、流されるようにそのまま灰田さんの黒塗りの車に乗せられた。
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