秘書課恋愛白書
その瞬間。
ジリジリジリとベルが鳴り響いてピタリと社長の動きは止まった。
天の助け。
これは社長個人のスマホの着信音だ!
早く出て、と内心冷や汗をかきながら解放されるのを待ち望む。
チッという舌打ちと共に体にのしかかっていた重みと押し付けられていた痛みから解放されたのだ。
恐る恐る振り返ればスマホの画面を目を細めて不機嫌丸出しで見つめる社長の姿。
口をへの字に結びながらムスッとした低い声でハイと出た。
「…もしもし。ねえ今いいところだったのにどうしてくれんの。キミっていっつも空気読めないよね」
電話越しの相手にチクチクと棘のある言葉を投げかける社長を他所にそそくさとデスクを綺麗にして立ち去る準備を始める私。
電話越しの救世主様ありがとうございます。
片付け終え逃げるように立ち去ろうとする私の腕を掴んで引き止める。
電話しながらも私の手首を掴んで離さない。
「お昼に行かせていただきます」
そう真顔で言うと、ムスッとして手を離した。
気づけば時刻は午後13時を回る手前。
お昼を理由にして電話中の社長を残して私は急ぎ足で部屋を後にした。