秘書課恋愛白書
それだけのことなのにドキッと心臓が跳ねる。
上目遣いで見られて目が合うと余計にうるさくなる。
「じゃあこれで」
「かしこまりました」
はい、と社長は店員に一枚の黒光りするカードを手渡した。
リアルでアレを使う人間を初めて見て思わず目を見開く。
そうこうしているうちにお預かりします、と店員さんはそそくさと部屋から出て行ってしまっま。
フィッティングルームに取り残された私と社長。
慌てて声を上げた。
「社長、スーツぐらい自分で買えます!」
「ソレ、いくらすると思ってんの」
「え?」
指さされた袖口の値札タグに視線を落として私は驚愕する。
桁を数えると、およそ1ヶ月分のお給料ぐらいの値段。
「でも社長に買ってもらうのは違う気が」
「プレゼントだからいーの」
プレゼントしてもらう義理なんてないじゃないか。
「私がゲロったからですか」
「そうだねー。ゲロったスーツで仕事されてもねー」
やっぱりそうなんだ。
クリーニング出したとはいえ、気にしてるんだ。
もう絶対酒には飲まれないぞ…と誓いを立てて恥ずかしさで俯いているとふんわり頭に重みを感じる。
ポンポンと優しく頭を撫でられた。