未完成のユメミヅキ
 亜弥はまだしも、わたしはお世辞にも運動神経が良いとはいえない。言わないとどこまで行くのか分からなかったから、自由なほうの腕で和泉くんの制服を掴んだ。

「ちょっと、待って、もうだめ」

 足がもつれて転びそうになった。和泉くんは足を止めてわたしを掴んでいた手を離した。

「大丈夫?」

「もう、麻文が変なこと言うから肝が冷えたよ」

 亜弥も肩で息をしている。

「先輩達にボコボコにされるところだったな」

「ごめん。だって、悔しかったから……」

 タロちゃんの努力を馬鹿にして、和泉くんを悪く言うのなんて、許せない。

「でも、まふが言ってくれて、スカッとしたわ。わたしだって頭にきたもん」

「ねぇ。本当にむかつく」

「ふたりとも、危ないからもう喧嘩売らないでくれよ」

 わたしと亜弥のやり取りを見ていて、険しい顔をしていた和泉くんが笑った。

「あんな風に言ってくれる友達がいて、タロがちょっと羨ましい」

「そんな、和泉くんのことだって」

 笑顔をちょっと歪めて、首を傾げる和泉くんは、顔の前で手を振る。

「俺はいいんだ」

 どうしてそんな風に言うんだろう。
 バスケ部を辞めたことを言いたいのだと思うけれど、そんなの関係ない。

「昼休み終わるからもう行くよ。追いかけてこないと思うけれど、気を付けて戻って」

「うん。ありがとう」

 掴まれた腕が、熱いよ。
 去っていく彼の背中をずっと見ていて時間を忘れた。亜弥に「見つめすぎ」と小突かれて我に返ったのだった。




 最後の授業が終わり、部活に行こうとするタロちゃんを追いかけて、廊下へ出た。タロちゃんは、バスケットボールのキーホルダーがぶら下がったスポーツバッグを今日も持っている。

「どうした?」

「ねぇタロちゃん。和泉くんって、バスケ辞めたんだってね」

 湿っぽくしたくなかったからなるべく軽めに言った。立ち話で済ませたい。タロちゃんも忙しいし。

「聞いたのか」

「本人から。あと、小谷先生が言っていた」

「先生、和泉のことを説得していたからな。俺もだけど」

 やっぱりタロちゃんは知っていた。当たり前か。

「初めて出会ったとき、凄くいい顔して体育館でシュート打っていたのに」

「まぁ……本人が辞めたっていうから仕方ないかなって……」

 たしかにそうなのだけれど。
 じゃあ、なぜバスケットボールのキーホルダーが欲しいなんて言うのだろう。辞めたのなら、どうして。

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