未完成のユメミヅキ
「天気が良かったらもっと楽しかったなぁ」

「ここに来るまで探検みたいで楽しかったし、コーヒーもケーキも美味しかったから、雨降ったのなんてどうってことないよ」

 乱暴だけれど、亜弥のこういうところが好き。

「それに、まふは和泉くんにも会えたわけだから」

「……そうだね」

 次、来るときはずっと晴れだといいな。そう思いながら、涼子さんと和泉くんにお礼を言って店を出る亜弥。

 外は、小雨とはいえ、やはりまだしとしとと降っていて、地面の湿った臭いが漂っていた。

 和泉くんも一緒に外に出てきてくれた。傘を持っていて、差してくれる。これは、相合い傘というのではないだろうか。考えたら顔が一気に熱くなった。それに気付いた亜弥がニヤニヤしながら、手を振って帰っていった。ふたりで亜弥を見送った。

 お店に戻って、少ししたら帰ろう。ご迷惑だし。傘を差してくれている和泉くんを感じながら、ぎこちなく振り返ったときだった。

「まふちゃん」

 名前を呼ばれ、見上げた。和泉くんの顔も傘も、高い位置にある。

「俺がここでバイトしていること、あまり……まわりに言わないで欲しいんだ」

「う、うん……言わない」

「この間のバスケ部の先輩たちみたいに、余計なことで騒がれたくないんだ」

 短い溜息と一緒に低いトーンで言われて、少しどきりとする。ふたりの秘密、みたいにも思うけれど、冷静に考えると、そうでもない。まわりに言いそうに見えるのだろうか、わたし。

「余計なこと?」

「俺にしてみれば余計。もうバスケ辞めたのに、あんな風に絡まれるのも面倒だし……静かに過ごしたいっていうか」

 また言うの、バスケ辞めたって。

「バイトしなくちゃいけないし、バスケにかける時間もないし」

 余計だとか面倒だとか、バスケを嫌いになったような言い方に、少し腹が立ってしまった。

「バイトのために、バスケ辞めたってことなの?」

 わたしが怒るのはお門違いなのは分かっている。和泉くんは答えたくなさそうだった。和泉くんはさも面倒くさそうに溜息をついた。

「怪我でも、したの?」

 和泉くんは黙って首を振った。問いを重ねると、和泉くんの眉間の皺が深くなる。

「なにか理由があるんだと思うけれど、だって、やりたいならやればいいし、好きなら、辞めるなんてそう簡単に。後悔すると思う」

 言葉を知らないということは、もどかしく。それでも伝えたい気持ちだけで話してしまう。なんとか、伝えたくて。


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