未完成のユメミヅキ
 再び外を見ると、灰色の空がまだ雨を降らせている。いま傘を差さずに駅まで帰ったら、濡れてしまうし。

「ちょっと待ってて」

 わたしは立ち上がり、レジにいる涼子さんのところへ行った。

「あの、すみません」

どうしたの? という風に涼子さんが首を傾げた。

「傘を貸していただけないでしょうか」

「ビニール傘で良ければ、ありますよ。少し小降りになったみたいだけれど、まだ止まないわね。帰るの?」

 涼子さんが、窓の外をちょっと見て、レジ台の下から傘を掴んで出してきた。客用のものを用意しているのだろう。そこへ、和泉くんが奥から出てきた。

「帰るの? まだ雨降ってるけど」

「友達が、習いごとがあってもう帰らないといけないので。亜弥、傘を貸して貰えたよ」

 そう亜弥に知らせると、席を立ってこちらへ来た。

「ありがとうございます。すみません。後日、お返ししますので」

「いいんですよ。持っていって」

「それと、麻文は残るので。帰るのはわたしだけ。まふはまだケーキ食べたいそうなんで」

「えっ、わたしも帰るよ。なんで」

 なんで? わたしは意味が分からず亜弥に小声で抗議した。

「なに言ってるの。このあと予定無いんでしょ? いたらいいじゃん」

「そりゃそうだけど、迷惑でしょうが!」

 小声で言い合うわたし達を涼子さんが不思議そうに見ている。すると亜弥がわたしの頭をポンポン叩き、和泉くんに向き直った。

「天田くん、まふのこと、置いていってもいい?」

「え? あ、うん……」

「ほら、いいってよ」

 何を言うのだ。嘘だ。やめて。和泉くん、いま勢いで頷いただけだから。亜弥の剣幕に圧倒されただけだから。
 そんな。ここにひとりにされるなんて……。焦るわたしを余所に、涼子さんは亜弥にビニール傘を渡す。

「亜弥さんを駅まで送ってあげられればいいんだけれど」

「傘だけでじゅうぶんです。さっきより弱まって小雨になっているし。いまのうちに」

「麻文ちゃんは、時間が許すならゆっくりしていって。この天気だとお店も静かだと思うから」

 涼子さんはそう言ってくれた。和泉くんはどんな顔をしているのか、気になるけれど怖くて見られない。亜弥はテーブルに戻って帰り支度を始めた。わたしはそばへいって亜弥を肘でつつく。

「亜弥のおせっかい」

「本気で嫌そうな顔されたら空気読んで帰ればいいでしょ」

 相変わらず乱暴である。

 バイト中の和泉くんに関しては、話したいとかいうよりもただ見ていたいのかもしれない。そこは難しい乙女心。いや、おしゃべりできるならしたいけれど。


< 39 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop