未完成のユメミヅキ


 ◇


 部屋のドアをノックする音が、意識を戻させる。目の奥がずんと重く感じられ、頭がふわふわする。

「まふー? 熱計った?」

「んあー……」

「38度。決定ね。今日は休んで、病院ね」

 昨日、雨の中を傘も無しに走ったために、ずぶ濡れで帰宅した。ロールケーキはビニール袋にしっかり入れて貰っていたので、濡れなかった。なんだかそれが笑える。

 温かいシャワーを浴びたのに、今朝、ベッドから起きあがれなかった。

「なんで雨の中を無理して帰ってくるのかねぇ、この子。電話くれれば迎えに行ったのに」

「……濡れたかった」

「なに言っているの。それで熱出してちゃ世話無いわね」

 ゆっくりでいいから着替えていらっしゃいと言って、お母さんは部屋を出ていった。

 正直、病院なんか行かないで寝ていたいところだけれど、こじらせると大変だから、ちゃんと診て貰うとお母さんが言うので従うことにする。

 寒気がして食欲も無い。熱のせいでふらつく足元に注意しながら、窮屈でない服に着替えた。

 お母さんの運転する車で、近所の病院へ行った。

 月曜日なのに意外と混雑していて、待たされるのを覚悟した。

「喉が渇かない? なにか食べたいものは?」
 
 お母さんが静かに聞いてくる。そっと額に当てられた手が柔らかい。

「んーん。なにも……」

 気遣ってくれるけれど、だるくて食欲が無かった。うとうとしながら待合室で順番を待った。携帯を見る気力もなく、ずっとお母さんの肩にもたれていた。

 やっと呼ばれ、診察後に薬を貰った。白髪頭の優しそうなおじいちゃん先生が『新しく高校生になって、学校の疲れも出たんでしょうな』と言って頭を撫でてくれた。

 小さい頃からお世話になっている先生なのである。

 水分補給をしなさいと言われたので、帰りにコンビニでスポーツドリンクを買い、帰宅した。

「シュークリームとプリンとゼリーもあるから、なにか食べられるものを食べて」

「じゃあ、プリンがいいな」

「それ食べて、薬を飲んであと寝てなさいね」

「うん」

 また、額に手を当ててくれる。そんなに何度も触ったって変わらないでしょうと思って、お母さんの心配そうな顔を見ていると、眠くなってくる。



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