未完成のユメミヅキ
その時、その男子生徒が振り向いて、視線が合った。大きな目で真っ直ぐ見つめられて、動けなくなった。そして、感覚的に思った。「凄いやつ」だ。分かった。
「天田……和泉くん?」
タロちゃんの口からと、わたしの妄想でしか聞いたことのない名前。しかもフルネームで覚えてしまった名前。
「俺の名前、どうして知っているの」
やっぱりそうだ。
ダムッとボールを突きながらこちらへ近付いてきた。大きな目は、ちょっと鋭い。タロちゃんもそうだけれど、勝負の世界にいると、ふとした時に目に鋭い光を持つ。
「あ、あの……わたし、松岡中の藤野太郎の同級生で」
タロちゃんの名前を出したら、気付いた様子でわたしを見る目が変わった。ちょっといまの瞬間、気持ちいい。
「あー……もしかして」
前髪がさらりと流れて、大きな目が細められた。途端に優しさが滲みだしたような表情だった。
「『まふちゃん』では?」
「そ、そそ、お、おう」
「おう?」
まさか自分の名前を知っているとは思わず、血流が倍になった。わたしの心臓、がんばれ。
心臓をぶち破って血が出るかもしれない。かかったらアレだから和泉くん避けて。見ないで、こんなわたしを。
「走ってきたの?」
「え?」
「息荒くて倒れそうだけど大丈夫?」
妄想に忙しいわたしは息が荒い。息じゃなくて鼻息。
鼻息の荒い女だと認識されてしまう。いつもはこんなに荒くないよ。違うよ、これが通常運行じゃないのよ。
だめだ。早くここから立ち去ったほうがいい。
「あの、タロちゃんが忘れ物して……今日、男バスないけど、自主練するって」
「ああ、俺、このあと会うから、渡しておこうか」
そうだったの。タロちゃん、和泉くんと会うなんてひとことも言っていなかったけれど。
「本当? じゃあお願いします」
和泉くんが大きな手を出したから、キーホルダーをそれに乗せる。ちょっとだけ触ってしまった。いまたぶん、1回鼓動が飛んだ。
和泉くんはキーホルダーを摘みあげて眺めている。ああ、そのキーホルダーいいなぁ。和泉くんに持って貰って。
いや、なにを考えているのだ。すると和泉くんがふっと笑って、言った。
「これ、肉団子?」
「え、ち、違う……」
「うそだって。そんな真に受けないで」
吹き出しそうになるのを我慢しているのが分かる。
なんだもう、笑顔が見たいからいいよ。なんでもいいや。
「天田……和泉くん?」
タロちゃんの口からと、わたしの妄想でしか聞いたことのない名前。しかもフルネームで覚えてしまった名前。
「俺の名前、どうして知っているの」
やっぱりそうだ。
ダムッとボールを突きながらこちらへ近付いてきた。大きな目は、ちょっと鋭い。タロちゃんもそうだけれど、勝負の世界にいると、ふとした時に目に鋭い光を持つ。
「あ、あの……わたし、松岡中の藤野太郎の同級生で」
タロちゃんの名前を出したら、気付いた様子でわたしを見る目が変わった。ちょっといまの瞬間、気持ちいい。
「あー……もしかして」
前髪がさらりと流れて、大きな目が細められた。途端に優しさが滲みだしたような表情だった。
「『まふちゃん』では?」
「そ、そそ、お、おう」
「おう?」
まさか自分の名前を知っているとは思わず、血流が倍になった。わたしの心臓、がんばれ。
心臓をぶち破って血が出るかもしれない。かかったらアレだから和泉くん避けて。見ないで、こんなわたしを。
「走ってきたの?」
「え?」
「息荒くて倒れそうだけど大丈夫?」
妄想に忙しいわたしは息が荒い。息じゃなくて鼻息。
鼻息の荒い女だと認識されてしまう。いつもはこんなに荒くないよ。違うよ、これが通常運行じゃないのよ。
だめだ。早くここから立ち去ったほうがいい。
「あの、タロちゃんが忘れ物して……今日、男バスないけど、自主練するって」
「ああ、俺、このあと会うから、渡しておこうか」
そうだったの。タロちゃん、和泉くんと会うなんてひとことも言っていなかったけれど。
「本当? じゃあお願いします」
和泉くんが大きな手を出したから、キーホルダーをそれに乗せる。ちょっとだけ触ってしまった。いまたぶん、1回鼓動が飛んだ。
和泉くんはキーホルダーを摘みあげて眺めている。ああ、そのキーホルダーいいなぁ。和泉くんに持って貰って。
いや、なにを考えているのだ。すると和泉くんがふっと笑って、言った。
「これ、肉団子?」
「え、ち、違う……」
「うそだって。そんな真に受けないで」
吹き出しそうになるのを我慢しているのが分かる。
なんだもう、笑顔が見たいからいいよ。なんでもいいや。