嘘つきピエロは息をしていない
「うん。いいよ」
返事したあとに違和を感じたのは、同じことを何度も確認されるうちに、まるで絶対にナイキくんとは付き合わないって暗示をかけられているみたいな気分になったからだ。優しいいっちゃんのことだから、私がもしナイキくんに恋をしていたら具合が悪いってことを事前に念入りに確認してくれたのだろうけれど。
「みんなにはあとからネタバラシしよう」
「……部長たちにも?」
「ああ」
第三者を巻き込むのは初めての試みだった。いつも芝居ごっこは、いっちゃんと私、二人だけの世界で行われていたから。
そしてテスト期間中のある日の帰り道。いっちゃんと帰っているとき部長に遭遇して、手を繋いでいたことに触れられて。晴れて恋人になったのです、と説明してあった。自然に振る舞えた気がした。
部長も深くは追及せず『そうか』としか答えなかったからセーフなのかな? とソワソワしていたけれど、やっぱり部長の目は誤魔化せなかったみたい。あのときの受け答えが不自然だったのかなぁ?
「斉が言い出したのだろう?」
「ええ、まぁ」
「目的はなんだ」
「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃないですか。観客の心を掴む演技するには身内からせめてこーかなと」
「なるほど。まぁそこそこ上手くやれていたね」
「部長からの“そこそこ”なら上出来だったな、きり」
ははっ、と笑ういっちゃんから話をふられる。
「そうだね!」
「それで。いつまで続ける気だ?」
「もうしばらくは」
「学校の外でも演じているのか?」
「そうですね。きりがなにか掴むまではって考えてます」
「ということは、斉はなにか掴んだんだな?」
「はい。いい脚本が書けそうです」
「それは良かった。ならもう小芝居は終わりだ」
「……え?」
「いいか、斉。吉川にいい芝居をさせたかったら、リアルに恋愛させてみろ。作り物なんかじゃなく」
「だってさ、きり。芝居ごっこはこれにておしまいだ」