嘘つきピエロは息をしていない
こうして、いっちゃんとの期間限定恋人設定は部長によって解除された。
「いつきー、ちょっと」
三年の安達(あだち)先輩から呼ばれ、いっちゃんが席を離れる。
安達先輩はちょっとふくよかな包容力のある女性だ。
長い髪を後ろにひとつに束ねている。
二人だけの三年生ということで、とても部長と仲がいい。
いっちゃんが呼ばれたってことは、脚本についての話し合いかな。
「吉川」
「はい!」
名前を呼ばれ、向こうへ歩いて行くいっちゃんから部長へと視線をうつす。
「恋をしたことがあるか?」
「……いえ」
「そうか。それで、斉との恋人ごっこはどうだった?」
「楽しかったです!」
「具体的に話せ」
「えっと――」
それから私は部長に、この一週間で感じたことを話した。
幼なじみとしてこれまで接してきたいっちゃんは、恋人モードになった途端に甘さがぐんと増して「可愛い」ってよく言うようになった。
それから、距離感。
隣を歩くときも、隣に座るときも、これまでよりほんの少し近かったような気がする。
「なにか学べたか?」
「はい! 彼氏ってものは、彼女のこと大切にしてくれるんだなぁと」
「それはこれまでだってそうなんじゃないか?」
「え……」
「斉が吉川を大切にしてきたことくらい。二人を見ていれば伝わってきたが?」
「そうですね。いっちゃんは、いつもすごく私のこと想ってくれてると思います」
「斉と手を繋いでいたな。ドキドキしたか?」
「……ドキドキ?」