嘘つきピエロは息をしていない
いっちゃんと手を繋いだのは、曖昧だけど、小学生のときぶりだった。
あの頃は車の通りの多い道路を歩くときとか、いっちゃんがきまって道路側を歩いて私の手を握ってくれていたんだ。
地元の小学校のお祭りみたいな普段より混雑している場所でも、はぐれないように繋いでいてくれた。
そんな思い出があったからかな。いっちゃんから差し出された手を躊躇なく掴めたのは。
でも、いっちゃんと手を繋いでいて、ドキドキはしなかった。どちらかというと……。
「わくわくしました! 恋人っぽいなと。いつか私も本当の彼氏ができたらこういうことするのかなって考えちゃったり……」
「入り込めてないじゃないか」
――!
「それが恋する乙女の思考回路か?」
「……いえ」
「吉川にとっては意味がないな。今後同様な配役で誘われても断われ」
「な……」
私はいっちゃんの提案に逆らったことは一度もない。
逆らうつもりも、ない。
だっていっちゃんといて楽しくなかったことはないから。
いつだって私はリードしてきてもらった。
だから今回の恋人ごっこだって、当然受け入れることができたんだ。
なのに――。