嘘つきピエロは息をしていない


「このこと。内藤は?」
「へ?……内藤くんですか?」
「アイツの前でも演技してたのか、と聞いている」

 部長、いつもと変わらない。

 クールビューティーって感じで。

 さっきいっちゃんの前でも笑ってくれていた。

 なのに今、どうしてかな。

 ……部長が怒っているようにみえる。

「はい。……って言っても、内藤くんでなくナイキくんのときなんですけど。ナイキくんモードのときは、眼鏡かけて前髪で顔が隠れてたので、その、いっちゃんは相手があの内藤くんだとは気づいていなかったんです。自分のことを彼氏だって自己紹介してました。私はそれに合わせていた感じです」
「内藤の反応は?」
「いつも通りでした」
「もう来ないかもな」

 私はそれを一瞬で理解することができなかった。

 十秒。

 いや、二十秒ほど経ったあと、ようやく部長の放った言葉の意味を理解できた途端、もう六月だというのに恐ろしく寒気がしたのは、ナイキくんが演劇部からも、私からも永遠に遠ざかる未来を想像したからだ。
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