嘘つきピエロは息をしていない
「したかも……しれません」
頭で考えるより先に口がそう答えていた。
「そういう空気に、もしもなっていたら。ただ、そんな空気、どうやって作るか想像もできないですが」
いっちゃんは、お互いのためを想って提案してくれた。
恋を知らない私に疑似体験させてくれた。
それは、そんなにいけないことだったの?
「いいか、吉川。現実は現実でいいんだ。君はまだ十五歳の女の子だ。リアルで感じたことを芝居に活かせ」
「リアルで……?」
「もちろん想像でしかできない配役はある」
「…………」
「騎士をするのに騎士になって戦に出てくる、なんて無理があるからね? 役になりきるために、勉強は不可欠だ。どんな人物像でどんな生い立ちなのか。そもそもに騎士の役目とはなんなのか。経験からでなく目から入る情報によって、多くのことを学ぶ。そして演じる。とはいえ実際に剣を持って振り回してみたり馬に乗ると経験値はあがるし芝居に役立つに違いない。でも、初恋は、そうじゃないだろう?」
初恋は、そうじゃ、ない……。