嘘つきピエロは息をしていない

 私たち以外に誰もいない空間で、いい感じに会話が盛り上がっている。

 これはまさに合宿に誘う大チャンスだ。

 でも、その前に。

 どうしても聞いておきたいことがある。

「帰らねーの?」
「あ、あのね。このあと部活で」
「土曜なのに部活あんの珍しいな」
「……ナイキくんも、顔ださない?」
「はぁ?」

 勇気を出せ。

 言うんだ、吉川きり。

「ほら。みんな、幽霊部員に会いたがってるし。挨拶だけでも。五分だけでも!」
「いいよ俺は」
「残りたくないんじゃなくて。残りたいのに、残れないの?」

 気だるげな表情から一変して、私の言葉に目を見開くナイキくん。

「やりたいこと、できないの?」
「それ知ってどーすんの?」
「え……」
「俺が吉川になにかを打ち明けたところで未来は変わらない。変わるとしたら悪い方向にだけだ」
「ナイキくん……」
「俺を知ろうと思うな」
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