嘘つきピエロは息をしていない


 *


 何が起きたかわからなかった。

 あの吉川から。

 ウザいくらい明るい吉川から。

 ――笑顔が、消えた

 突然叫びだしたと思ったら、一色が現れて。

 なだめられた吉川は、笑顔を取り戻し。

『きり。先に部室行ってて』
『……うん!』

 何事もなかったかのように、この場を去った。

「内藤……いや、内貴。きりに、なにした?」

 一色が睨みつけてくる。

 いつもの優しそうな先輩は、そこにはいない。

「やっぱり俺が内藤って気づいていたんですね」
「そんなことは、どうでもいい。答えろ!」

 穏やかな一色が、ここまで逆上する理由がわからない。

 だいたい、さっきのやり取り。

『きりといえば、天真爛漫だろ?』

 そりゃあ吉川にその言葉は似合うさ。

 でも。

 【約束】ってなんだよ。

 泣きそうな顔して取り乱してる吉川に対して一色はなんであんなことを言ったんだ?

 それにそのあとの吉川の態度。

 あっさり、一色に促されるままに、部室に向かった。

 ……おかしいだろ。どう考えても。
< 246 / 294 >

この作品をシェア

pagetop