嘘つきピエロは息をしていない

 一色の吉川との思い出を懐かしむ表情は、穏やかでいて、どこか奇妙に見えた。

「きりが学校でからかわれているところに、止めに入ったことがあります。一度や二度じゃない。

きりはそういうことがあるたび、親や先生に言うわけでもなく心を閉ざし『私が普通のことができないからみんなを困らせている』『いつも迷惑をかけてから気づいてしまう』って自分を責め、泣きそうな顔をするんです。

当時は今ほど意思疎通が得意でなかったので、そのことできりは……同級生から、いじめられていました」
「……っ」

 俺に冷たくされ傷ついた吉川の表情がチラついて頭から離れない。

「きりは、泣いたりはしませんでした。本当に強い子です。それに、頑張り屋なんです。この学校も必死に勉強して入った。俺を追いかけて」
「そろそろ教えてくれないか、斉」

 相川が口を開いた。

「吉川は。いつから演じている?」

(……演じている?)

 相川の不可解な問いかけに

「根っこから教えてくれないかな」

 やってきたのは西条だった。

「そもそもに吉川さんは、一色先輩と出会ったとき、どうしてそんなにボロボロな状態だったんですか」
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