嘘つきピエロは息をしていない

 どうやら話を聞いていたらしい。

「吉川さんが笑わない子だったなんて。怯えた小動物みたいなんて信じられません。人付き合いは下手だし、バカだとは思いますが。あんなに明るいじゃないですか」

 おいおい、西条。

 どうしたんだよお前。王子の仮面がすっかり剥がれてやがる。

「きりをバカって言うな」
「あなただって思ってるんじゃないです?」
「……なに?」
「さっきから吉川さんのこと見下してますよね。サポートしてやったと言うけど。不幸な女の子を救ったヒーローみたいな自分に酔ってる感じがしなくもない」
「なんだと……!」

 一色が西条に掴みかかる。

「図星ですか、先輩」
「お前になにがわかる!」

 西条を睨みつける一色と、そんな一色を見て微笑を崩さない西条。

 これが西条という男なんだ。

 普通あんな顔した男から胸ぐら掴まれたら少しはビビりそうなもんなのに、けろっとしてやがる。

 いったいどんな風に生きてきたらこうなる?

 マンションで男目掛けて躊躇いなく灰皿を振り下ろそうとしていたのもそうだ。

 もしかして西条は、とんでもねぇ闇を抱えているのかもしれない。

 ――闇?

「内藤。二人を止めろ」

 部長命令が下された。

「落ち着いてください、先輩」

 一色を西条から引き離す。
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