嘘つきピエロは息をしていない
「おそらく、きり本人は、昔のことを覚えていません。ネグレクトされ、いつ死んでいてもおかしくない危険な状態だったことも。そのあと療育されたことも。きっと当時のきりには理解できていません。それでも思うところはあるんでしょうね。どうして親がいないか、きりは知ろうとしない」
なあ。
全部、嘘だと言ってくれよ。
やりたいことやって。
楽しそうにしているアイツにそんな過去があるなんて。
トラウマを抱えているなんて。
吉川が親に捨てられたなんて――
「前にした質問を、もう一度しようか」
相川が一色をまっすぐ見つめる。
「最初に芝居ごっこを始めたのはいつだった?」
「…………」
「覚えていないなんて、もう言うなよ?」
「俺は、ただ。きりに楽しく生きてほしかったんです」
「吉川に?」
「はい。だから、きりに絵本をプレゼントしました」
――絵本?
「タイトルは、『嘘つきなピエロ』」