嘘つきピエロは息をしていない


 三



「……いちばん乗り」

 部室に到着すると、そこには誰の姿もなかった。

 棚から冊子をひとつ手に取り、窓際にポツリと置かれた木製の丸椅子に腰をおろす。

 去年の学園祭で披露された劇の台本。

 もちろんいっちゃんが書いたものだ。

『きり、俺さ』

 いっちゃんには夢があった。

『絵本作家になりたかった』

 いっちゃんの生み出した物語は、ワタシが把握しているだけでも百はとうに超えている。

 けれどそれらが明るみに出ることはなかった。

 ワタシはいっちゃんの物語を広めたい。

 だけどいっちゃんは、絵本を描いていることは二人だけの内緒にしてって言った。

『俺の人生は、もう決められている。敷かれたレールの上を進むだけ』
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