嘘つきピエロは息をしていない
「吉川」
シャボン玉が弾けるように、その声で、ワタシは深く底に沈んでいく。
――出番だよ、『きり』
「な、ナイキくん!……いっちゃんは?」
どうやらナイキくん一人で部室まで来たみたい。
それも、眼鏡をかけた地味メンのまま。
「俺、吉川のこと舐めてたわ」
「へ?」
「思ってることなんでも顔に出して、演技なんてできっこねーだろって考えてた」
「あー、そうだね。私、お芝居は好きだけどうまくはないかな。コピーできても、表現力が一切ないんだよね。下手くそなの。だからこそキラリと輝くものを持ってるキャストが欲しいなって探してるしそんな人とお芝居がしたい」
言い終わったあとで自虐的すぎたかな、と可笑しくなってきた。
「へへ」
「笑うな」
ナイキくんがいつものように呆れて笑ってくれない。
それどころか。
真面目な顔を、私に向けている。
「俺の前では無理して笑うな」