嘘つきピエロは息をしていない


 瞬間、頭の中に浮かんだのは――モノクロのイラスト。

 仮面をつけているのは……ピエロ?

 それは、誰?

 そう考えた途端、あっという間に消えてなくなってしまった。

 まるで、思い出すなと強制的にデリートされてしまったみたいに。

「一色が子供の頃に作った絵本のタイトルだ。すべて英字で書かれている。和訳すると、タイトルは“嘘つきなピエロ”」
「……知らない」

 いっちゃんの物語は全て把握している。

 その中にピエロなんて単語が含まれているものは一つもなかった。

「俺、なにも見えていなかった」
「ナイキくん……?」
「なぁ吉川。いったいどれだけの言葉を呑み込んできたんだお前。流さず堪えてきた涙はどこへ消えた?」
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