嘘つきピエロは息をしていない
「それはちょっと大袈裟だな。あくまで、みんなの前で明るく振る舞わせた。一人の時間や俺の前では無理はするなと言ってある。二つの顔を持ち、使い分けろと」

 二つの顔というのは、明るく前向きな吉川と――そして、暗く後ろ向きな本来の吉川のことをさしているのだろう。

「だけど吉川はアンタの前でも仮面をかぶり続けている。結局、アンタのせいで吉川は言いたいことも言えなくなった」

 吉川が泣きそうな顔をして、頭を横に振っている。

「ワタシはいっちゃんに救われてきたよ。ずっと」

 吉川が一色に助けられたことも一色が吉川を大切にしていることも、揺るぎない事実だ。

 それでも一色は吉川をコントロールした。

 吉川のために。

 そして、自分のために。

「俺はな、きり。お前が内藤に懐き始めたことが心底気に食わなかった」
「え……」
「これまで面倒見てやったのも。傍にいてやったのも、俺なのに。なに突然現れた男にシッポ振ってるんだろうって」
「いっちゃんは、私に友達できて、嬉しくなかったの?」
「頭ではわかってた。お前の新しい出会いを――成長を喜んでやらなきゃと。でも、思えなかった。きりは俺のものだって。きりを笑顔にさせるのは俺だって。心が、それを許さなかった」
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