嘘つきピエロは息をしていない

 幼い頃の俺が、母さんの部屋で見つけたものがある。

「十五年前。不慮の事故で、ある若手俳優が亡くなった」

 ――スクラップ

 雑誌の切り抜きや、宣伝物。

 読めばある俳優のものということがわかった。

 母さんが芸能人に興味を持ったりキャーキャー騒ぐところは想像できず、見つけたときは意外でしかなかった。

 その中に、目を疑うものがあった。

 その男と母さんが、仲良さげに二人で写っている写真だ。

「大ヒット映画の主演になるはずだった。生きていれば」

 ――そうか、一色。

 俺を吉川から引き離す最大の切り札を、既に手に入れていたんだなお前。

「一度だけ言う。きりに、これ以上近づくな」 
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