嘘つきピエロは息をしていない

 下手くそに、息を吸い込んだ。

 赤ちゃんが生まれて初めて呼吸をするように。

 それは本当に下手くそだったけれど――生きようという想いが込められていたんだ。

「吉川!」

 むせ返るワタシに近づいていきた内気くんが、力一杯、ワタシを抱き寄せる。

「お前っ……」

 ナイキくんに掴みかかろうとするいっちゃんを、

「まぁまぁ」

 取り押さえたのは、保先生だった。

 気づけばその後ろに、部長と、西条くんと、それから――みんながいた。

「なあ、斉。脅迫罪って知っているか?」

 部長が微笑んでいっちゃんを見つめている。

「内藤のことちょっと脅しすぎだ」
「訴えさせますか? 証拠もないのに」
「証拠ならある。会話は録音させてもらった」

 部長の言葉にいっちゃんは、希望を失うどころか――

「そういう人でしたね。部長は」

 呆れて笑っている。

 さっきまで怒っていたように見えたのに。

「言っただろう? 雛が可愛くて籠から出したくない気持ちはわかる。だけどそれじゃあ成長しないよと」
「いいんですか。内貴をかくまって。アイツは――」
「大歓迎だ。むしろいいネタになる」

 あっけらかんと言う部長に、

「鬼かよ」

 苦笑いするナイキくん。
< 272 / 294 >

この作品をシェア

pagetop