嘘つきピエロは息をしていない
謝ることは得意ではないらしい。
まっすぐ目をみて謝られたあと、すぐに視線をそらされた。そして、頭なんてかいている。
不器用っぽさが自然で。
仮に、これが演技なのだとしたら100点満点中120点つけたいくらいの出来栄えで。
……でもきっとこれは本当のナイキくんで。
拍子抜けというか。
怒りが消滅してしまったじゃかいか。
あんなに大嫌いって思っていたのに。
一生話したくないと思っていたのに。
「正直、あそこまで吉川を怒らせると思わなかった」
「……怒るよ。あんな言い方されたら」
だけど、まさかナイキくんの口から謝罪の言葉が出るなんて。
「ナイキくんは、もうちょっと人に優しくした方がいい」
「余計なお世話だ」
「優しくできないわけじゃないんだよね?」
「は?」
「私のために戦ってくれた」
本当に冷たい人間なら人助なんてしない。
路地裏まで来てくれたのは私を守るためだったんでしょ?
「あんなもん、放置したら後味わりぃから」
「どんな理由だとしても、ナイキくんに助けてもらったことは私にとって泣きそうなくらい嬉しい出来事だった」
「……あっそ」
どちらからともなく、校舎を歩き始める。
私の隣を同じ速度で歩いているってことは歩調を合わせてくれているんだ。
そうじゃなきゃ足の長いナイキくんは私を簡単に追い抜いて行ってしまうだろう。
金輪際つきまとうなって言ったのに。
本当になにを考えているかわからない。
もうすぐA組に着く。
「つーか、吉川きり。お前も悪い」
「な、なんで……?」
「誘い方下手すぎ。あれで俺が靡くと思ってんのかよ」