嘘つきピエロは息をしていない


「なっ……そんなこと言っても」

 お芝居に――部活に興味を持って欲しかった。

 伝えたいものは、たくさんある。

 ありすぎるの。

 それをナイキくんにどうやって伝えれば良かったんだろう。

「ワケありって感じだな」
「え……」
「知り合いでもない男に次々と声かけてまわるか?」
「ハイ……ブの。危機で」
「は?」
「居場所を失いたくない」

 私の言葉のあとナイキくんの足が一瞬止まったかのように見えたけれど、彼は歩き続けているしA組はもう目と鼻の先だ。

 演劇部には尊敬している先輩も、優しい先輩も、面白い先輩も、それから昔からずっと大好きな人もいる。

 だけど。

「私しかいないの、一年生。きっとそんなの……演劇部だけだよ」

 こんなこと、先輩の前では絶対に言えない。

 入ったばかりの私よりも、二年生や三年生の方が部員集めには力を入れてきてくれただろうし、思い出の詰まった部活がなくなってしまえば何倍も悲しいに決まっている。

 なんで私、ナイキくんに弱音吐いてるんだろう。

 早速後悔してきた。

 でも、言ってしまったものを取り消したりなんてできない。

 ナイキくんは扉の前で立ち止まり、中に入る気配がない。

 つられて私も立ち止まってしまった。

「まあ、頑張れば」

 ――!

「俺にしてやれることなんて。なんにもねぇけどな」

 そう言い捨てると、ナイキくんは行ってしまった。

 去り際に、レンズの奥の瞳が少し寂しげに見えたように感じたのは気のせいなのだろうか。

 ――ナイキくんが、わからない。

 ナイキくんの気持ちも、それから、ナイキくんのことも。

 突き放したかと思ったら背中を押してくれた。

 教室に入っていくナイキくんの背中を見つめ、もっとあなたのことが知りたいと、そう思わずにはいられなかった。
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