嘘つきピエロは息をしていない

 二




 吉川きりに謝ったことで、嘘みたいに、胸のつかえが取れたのがわかった。

「……バカみてぇ」

 ――俺が。

 吉川の好きなこと否定した挙げ句謝って。

 なにやってるんだろ。

 関わらなければいいのに。

 忘れてしまえばいいのに。

 それが、できそうにない。

 あんな子供みたいな女に俺の心が幾分か支配されかけている。

 ずっと誰も入って来なかったスペースに、けっして入らせなかった場所に、あっという間に侵入し居座ってしまった。

 もちろんアイツは無自覚だ。

 こんなにも俺のペースを乱しているなんて思いもしないだろう。

【まあ、頑張れば】

 あの言葉は俺の本心だった。

 考えて作り出したもんなんかじゃなく素直にそう思えた。

 それを言葉にするつもりなんてなかったのに気づけば口走っていた。

 吉川のやりたいことが上手くいけば――居場所がなくならなければいいなと、今はそう願わずにはいられない。

「なんで送っちまったんだろ。エールなんて」

 胸のつかえは、取れたはずなのに。

「またモヤモヤしてやがる」

 ひとり、昼休みの屋上で正体不明の感情に振り回された。
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