嘘つきピエロは息をしていない


 芝居……か。

 なんの因果か“この俺”が、その道に誘われるとは。

「西条、女の子紹介してくれよ」
「お前モデルの知り合いたくさんいるだろ?」

 吉川が西条に会いに来ていたのも、勧誘目的だったんだよな。

 まさか西条に再アタックするなんて無謀なこと考えてねぇだろうな?

 たしかに西条なら演劇部に注目を浴びせられるだろう。

 そのファンがどっと入部希望するのも目に見えているが。

「知り合いってほどでもないかな。同じ雑誌に載ってても撮影は別だったりするから」

 俺が思うに、西条は人の為には動かない。

 アイツに期待するくらいならまだ、俺の方が吉川の為になにかしてやれる……って。

「いやいや。なに考えてんだ。俺は」

 思わず声に出た。

 完全に独り言だ。

 近くにいた女子が、

「やだ、キモい」

 なんて言ってやがる。うるせぇ。

(俺が、吉川の為に?)

 冗談じゃねぇ。

 テメェの人生すらまともに生きられていない俺が、誰かの為になにかしたいなんて。

 ――おこがましい

「ちょっと、男子」
「西条くんに変なお願いしないでよ!」

 ひとつ、腑に落ちないことがある。

 あの吉川きりが芝居をするなんて、どうも俺には考えられない。

 普通に生活するだけでも危なっかしいわ、どんくさいわ、見ていられないアイツがだ。

 舞台に立って他人を演じられるのか?

 ……見てみたい。

 吉川が芝居をしているところを。
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